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2017年3月号エスト賃貸経営新聞

日本銀行・地域経済報告「さくらレポート」に見る最新賃貸住宅事情
地域の賃貸需要が新設を支えているが需給に緩みも


賃貸住宅経営の人気が続いています。
あまりの高い人気からバブルの警鐘さえ鳴らされています。
こうした折り、日本銀行から「さくらレポート」が公表されました。
各地に見られる賃貸市場の最新動向を同レポートを交えてまとめてみました。

日本銀行が1月16日に開催した支店長会議に向けて収集した情報をもとに、公表されたのが地域経済報告の「さくらレポート」。
支店等地域経済担当部署から各地域における住宅投資の動向とともに、貸家市場の実態が詳細に記載されています。

まず、各地域における最近の貸家の全般的な投資動向として、「都道府県単位でみると、人口が減少に転じている地方も含めて、幅広い地域で着工が増加しているとの声が聞かれる」と紹介しています。

そして、全国各地域の動向と背景を次のようにまとめています。
( )に複数の地名があるのは、類似の事例を報告した支店。

「低金利環境、安定的な家賃収入、相続税対策などを背景に、個人・企業による貸家経営が増加している。とくに近年では、株価や為替相場の変動が激しい中で安定的な家賃収入が得られる点が投資家から好感されている」(仙台、下関、高松ほか)。
「大都市圏での賃貸物件の利回り低下や、インターネットによる賃貸物件取引きの普及を背景に、都市部在住の投資家が地方の賃貸物件を購入するケースが散見されている。こうした都市部からの投資需要が、当地の貸家着工戸数の増加を下支えしている可能性がある」(下関、前橋、大分ほか)。

さらにこうした高い投資意欲の理由として「東京等の大都市だけでなく地方でも、都市部や郊外にある工場の近隣など、単身世帯等が増加しているエリアがあり、そうしたエリアを中心に、入居需要への期待と相続税節税や低金利下での資産運用ニーズとが相俟って地主等が積極的に貸家経営に乗り出しているとの声が多い」と見ています。

現状の問題点としては、「多くの地主等が短期間のうちに貸家経営に乗り出した結果、貸家市場全体でみると、需給が緩みつつあるとの声が聞かれる。
実際、賃貸物件の仲介業者等からは、郊外の築古物件など相対的に魅力の乏しい物件を中心に、空室率の上昇や家賃の下落がみられるとの声が聞かれている」としています。

貸家の新築増の背景に、全金融機関の積極的な融資スタンスがあるのですが、レポートでは次のように捉えています。
貸家需要の中には土地を持たない富裕層による資産運用目的の投資も少なからず含まれている。
金利の低下に伴い貸家経営の期待利回りが上昇していることや、金融機関が積極的な貸出スタンスにあることが、こうした投資を後押ししている」(高松)。

地域に根ざした賃貸需要と
大きな社会的なうねりを反映


ところでこのレポートで注目されるのは、相続税対策として貸家の新設が強調されている一方で、地域によっては実需に基いて建設されていることが、むしろ浮き彫りになっていること(下記の『賃貸マーケット情報』)。

賃貸住宅の新築は、平成28年実績ではここ8年で最高を記録しています(『ニュースフラッシュ』参照)。
その背景には相続税対策、低金利だけではなく、地域に根ざした賃貸需要と大きな社会的なうねりを反映しているのが「さくらレポート」から読み取れます。

なお、同レポートは日銀のホームページからダウンロードできます。




「各地の貸家入居需要の実情」
相続税の節税効果を考慮すると
総合的にみれば貸家を建てた方が得



貸家の新設が全国で相次いでいますが、各地域の投資動向の実態はなかなかつまびらかになりません。
ところが今回、日本銀行から公表された地域経済担当部署の報告を集約し地域経済報告「さくらレポート」によって、各地域特有の貸家入居需要の実情が浮き彫りにされました。

地域の生の声ともいえる賃貸ニーズのいくつかを挙げてみます。
( )に複数の地名があるのは、類似の事例を報告した支店。

「相続税の節税効果等を考慮すると、入居率がさほど高くなくても、総合的にみれば、貸家を建設しないよりも、建てた方が得、という判断のもと、都市部からやや離れたエリアでも貸家の着工に踏み切るケースがある」(東京)。

「県内は人口・世帯数ともに増加していることから、貸家に対するニーズは強い」(横浜、福岡、那覇)。
「愛知県は、自動車関連などの製造業が集積しているほか、近年は大型商業施設の開業や物流施設の新設が続いていることもあって、県内の大半の地域でワンルームマンションの需要が旺盛」(名古屋、金沢、松江)。

セカンドハウス目的に賃貸物件を借りるケースも

「長崎県は、全国に比べて人口減少が急速に進行しているが、都市部および周辺地域に限れば、1人世帯を中心に世帯数が増加していることを背景に根強い貸家需要がある」(長崎、新潟、下関)。
「宮崎市を中心に、利便性の高い都市部に周辺郡部から人が移り住む動きがみられており、これが貸家需要の増加に繋がっている」(鹿児島、松山、高知ほか)。

「最近では、京都での長期滞在や居住を希望する府外在住の富裕層やリタイヤ層が、セカンドハウス目的に京都市内中心部の高価格帯物件を借りるケースがみられている」(京都)。
「自然が豊かな北杜市や河口湖周辺では、50~60歳代の県外の顧客がセカンドハウスとして賃貸物件を契約し、週末の滞在に利用するケースが増えてきている」(甲府)。




ニュースフラッシュ
平成28年1年間の貸家の新設着工
過去8年で最も多い戸数



国土交通省が発表した貸家の平成28年1年間の新設着工は、前年比10.5%増の約42万戸で、5年連続の増加。
19年以降、過去8年で最も多い着工戸数となっています。

28年1年間の新設住宅着工は、持家、貸家、分譲住宅が増加したため、全体で前年比6.4%の増加の約97万戸となっていますが、貸家の割合が大きく、全戸数のうち43%を占めています。

貸家新設の全国の傾向ですが、三大都市圏で見ると首都圏が前年比10.1%増、近畿圏が9.5%増、中部圏が9.6%増、その他地域が11.5%増と、大都市圏を始め、全国的に軒並み大幅な伸びを見せています。

都道府県別に見ても、全国で前年比、落ち込んでいるのは岩手、宮城、福井、和歌山の4県のみで、残り総ては増加。
富山、長野、徳島は30%を超え、青森、新潟、山梨、奈良、鳥取、島根、熊本は20%台の伸びとなっています。
この他にも千葉、東京、大阪、兵庫など16道府県が10%台の増。




住宅確保要配慮者の入居円滑化の新制度
空き家活用で住宅セーフティネット強化


賃貸住宅の拡張を図る「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、実用化に向けて動き始めました。
賃貸市場の広がりが期待されます。

新法案の背景には次のような事情があります。
高齢者、低額所得者、子育て世帯、障害者、被災者などの住宅の確保にとくに配慮を要する人達(住宅確保要配慮者)の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を創設して、住宅セーフティネット機能の強化を図るというものです。

この他にも人口減少が加速する中で、公営住宅の増加が見込めないことや空き家、空き室を活用する方策として期待されています。
そのために、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法案」が2月3日に覚悟決定されました。

国土交通省のデータによりますと、貸主の入居拒否感が強いのは、単身の高齢者、生活保護受給者、高齢者のみの世帯、一人親世帯とされています。
例えば単身高齢者について今後10年間で100万世帯の増加が見込まれ、このうち賃貸住宅入居者は22万人と見られています。

また、若年層の収入はピーク時から1割減少し、一人親世帯の収入は夫婦子世帯の43%など、家賃滞納、孤独死、子どもの事故、騒音等のトラブルを案じて入居拒否する傾向があることから、安心して暮らせる住宅の確保を可能とする住宅セーフティネット機能の強化が重要な政策課題となっています。
そのために空き家等を活用して、住宅ネット機能の強化を図ろうとするのが新法案の狙いです。

今秋、制度の運用をスタート
新しいマーケットに期待


新しくつくられる制度は、空き家の所有者が物件を都道府県等に登録し、各自治体が物件情報を提供する仕組みです。
現在はまだ0戸の登録戸数を平成32年度末に、17万5千戸件確保する計画。
およそ3年間で17万5千戸の登録戸数を確保するために、平成29年度の予算案で改修費の補助や家賃債務保証料、家賃低廉化の補助を見込んでいます。
また、不動産関係団体などの居住支援協議会の活動に国が補助して、住宅情報の提供、相談の実施等の業務を支援します。

これから法案や予算を整備して、今秋には制度の運用をスタートする方針ですが、運用が本格的に稼働すれば、賃貸住宅の新しいマーケットが見込まれ、期待が寄せられています。




賃貸経営ワンポイントアドバイス
インフレに備えて賃貸経営の安定を図ることは
理にかなった資産運用



デフレ解消後の賃貸経営の優位性

今月は少し視点を変えて、資産運用と賃貸経営について考えてみたいと思います。

賃貸経営を始める理由の一つに、まとまった遊んでいる土地の有効活用があります。
土地活用の一環として取り組む事例が数多く見られます。
それに相続税対策が加わって、賃貸経営は土地活用、資産運用のベストプランと広く認識されています。
確かに高入居率さえ維持すれば毎月の家賃収入ほど手堅く、安定した収入はありません。

話を少し転じますが、日本経済がデフレ状態から抜け出せずに苦戦していることはよく知られています。
政府はデフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現を打ち出しています。
日本銀行のホームページには、平成25年1月に、2%の「物価安定の目標」が掲げられており、消費者物価の前年比上昇率を2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしているわけですから、早晩実現するのではないか、と考えたりします。

一筋縄ではいかないでしょうが、国全体が「量的・質的金融緩和」を打ち出し、導入から拡大、さらには「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」と、力業の金融政策を標榜して、2%の目標に向かって奮闘しているのですから、何らかの結果が出ると思われます。

話が横道にそれましたが、要は2%のインフレが実現すれば、手持ちの現金や預貯金が目減りするというのです。

そこで生きてくるのが、時々の相場にスライドする賃料収入が見込まれる賃貸経営の優位性です。
今のところまだピンときませんが、将来のインフレに備えてこれから先の足場を固めるためにも、賃貸経営の安定を図ることは理にかなった資産運用となります。

賃貸経営が魅力あるからこそ各地で激戦模様となっています。
それだけに経営の安定化を実現したいものです。




ちょっと一服
賃貸経営者の供給意欲度はほぼ変わらず
低層賃貸住宅市場に変化の兆し(住団連)



アパート・マンションを供給する建設会社団体の住宅生産団体連合会(住団連)から「平成28年度第4回住宅業況調査報告」がこのほど公表されましたが、それによりますと、低層賃貸住宅経営者の平成28年10~12月における供給意欲度は、全国的にほぼ変わらないとしています。

また、空室率については、前四半期に比べて同期の実績は全国平均で、「減少」が10%から4%に減少したが、「増加」も13%から19%に増え、東北、関東、中部、近畿、中国・四国エリアで空室率が増加している、としています。

建設会社は市場のニーズをとらえるのに見学会、イベント等の来場者数や引き合い件数、空室率、金融機関の融資姿勢を常にチェックしていますが、公表された昨年10~12月の実績から、低層賃貸住宅市場に変化の兆しが見え始めたと捉えているようです。

しかし、29年1~3月の受注戸数の予測では、28年10~12月の実績に対し、全国平均で総受注戸数がプラス16ポイント、総受注金額がプラス11ポイントを予測しています。




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